子どもたちに、「ふるさと」と呼べる場所を。
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岩波聡子さんプロフィール
福岡県出身の岩波聡子さん。大阪から福島市を経て、会津美里町に一家でIターン。同町の古民家で暮らしながら、自家製天然酵母パン教室「いわなみ家」を主宰している。長野県出身のご主人・友紀さんとふたりの娘さんとの4人家族。

古民家でパン教室
もともと新聞社に勤務していた聡子さん。ご主人の友紀さんは職場の同僚で、同じ報道カメラマンでした。東京など全国各地で勤務した後、結婚を機に退職。その後、都内のパン職人養成校に通い、パン作りを極めていくことになります。
パンが好きで、20代前半の頃から趣味として酵母作りなどをしていた聡子さんですが、「最初は自分の生業にするとは考えておらず、自宅で食べたり、職場の方に配ったりしていた程度でした」。しかし次第に、住んでいた東京や大阪でパン教室を主宰するようになっていきました。
その後、「福島を撮り続けたい」という友紀さんの転勤の希望が叶い、福島市に住むことに。ここでもパン教室を開催したところ、1ヶ月まるまる予約が埋まってしまうほどの大盛況だったそうで、「どんな場所でもパン教室のニーズは想像以上にある」と聡子さんは感じたそうです。

子どもたちに「ふるさと」と呼べる場所をつくりたい
岩波さん一家が福島市に住み始めてしばらくした後、友紀さんがフォトグラファーとして独立し、夫婦揃ってフリーランスの道に進むことになります。このタイミングで、かねてより夢だった田舎暮らしの実現に向け動き出します。
移住に当たり、岩波さん夫妻が最も重視していたことの一つが、子育て環境でした。「長女が小学生になる前に、『子どもたちにとって、故郷になるところを探したいね』と夫婦で話していたんです」。
その願いを叶えるために、外すことのできない条件がありました。「季節の移ろいがはっきりしているところに住みたかったんです。自然の中で四季を感じられる環境のほうが、子どもたちが素敵な大人に成長してくれるんじゃないかなと思って。大人になったらいつでも自分の意思で都会には行けるけど、幼少期に田舎でしかできない体験を体に染み込ませて、引き出しをいっぱい作ってあげられたらと思ったんです」と聡子さん。
もう一つ、重要なポイントがありました。「主人は、できれば自分の生まれ故郷に似ているところに住みたいとの想いがあったようです。山があり、蕎麦が美味しくて、温泉がある場所がいいと常々言っていたんです。最も理想に近かった場所の一つが、この町でした」。
自然豊かな長野県出身の友紀さんの意見も大いに取り入れ、岩波さん夫婦が最終的に選んだのは、会津美里町でした。

地域に根付いたパン作りを
会津美里町がワインの産地であることも、この地へ移住したいという気持ちを後押ししました。 自家製の天然酵母からパンを製造している聡子さんは、最高のパンを作るため、周辺環境にもこだわりたいと考えていました。
「パンとワインは切っても切れない関係。近くに良いワイナリーさんがあることは、パン作りを仕事にしていくに当たり、理想的だなと。それに、町内には会津本郷焼で有名な旧会津本郷町があったり、ものづくりをする人が多い土地なんですよね。だから、商売をする上でも最適な場所だと思ったんです」。
また、現在の住まいとなる古民家との出会いも移住を決意する契機になったそう。風情ある古民家は、一歩中に入ると広い土間が現れ、古き良き日本家屋の姿を残しながらも、ところどころには現代風のリフォームが施されています。これらは、DIYを大の得意とする友紀さんの手によるもの。風呂場なども自分たちの手で改修しているそうです。
「古民家のリフォームはお金のかかることですが、ありがたいことに福島県の補助金(福島県空き家再生・子育て支援事業補助金)も活用しながら、手を加えています」と聡子さん。
古民家を拠点にすることは、パン教室開催の大きな助けにもなっていると聡子さんは言います。「パン教室の生徒さんの中には『おばあちゃん家に帰ってきたみたい!』と大喜びする方もいて、日常とは少し違った雰囲気を感じていただけるようです。いずれは土間を改修してパン工房にしたり、お客さんを泊められるようにしたいと思っています。今後はより一層、地域に根付いたパン作りをしていきたいですね」。


編集後記
岩波さん夫妻のご自宅で取材しましたが、友紀さんの手によるリフォームは大工さんによる仕上がりさながらで、本当に驚きました。
岩波さん夫妻が移住に際して特に時間をかけて取り組んだのが情報収集。雑誌やネット上の移住体験記を可能な限り読み、イメージを膨らませたと言います。
また、役場の担当者に様々なことを率直に相談できたことも大きな助けになったそう。会津美里町では移住・定住に関する情報サイト「あいづみさと生活」を開設しているほか、田舎ぐらし体験ツアーを実施するなど、移住前後のギャップを埋める試みが数多く実施されています。
(掲載:2019年11月)