未開発だからこそ楽しい!夫婦で地域に根ざしたローカル開業

愛知県出身で現役の地域おこし協力隊として活動する茶圓さんご夫妻。南会津町の自然に囲まれた環境や古民家に一目惚れして移住へと至ったお話を伺いました。

・栃木県→南会津町
・秀介さん:都市開発→地域おこし協力隊、いずみさん:専業主婦→地域おこし協力隊

  • 起業
  • Iターン
  • 家族で移住
  • 地域おこし協力隊

INDEX

茶圓秀介さん、茶圓いずみさん

茶圓秀介さん:
1990年生まれ。愛知県出身。長野県の大学で都市計画や日本建築などについて学ぶランドスケープを専攻。卒業後は東京都内の再開発プロジェクトに携わるなかで那須塩原市に移住。都心への通勤をするもライフスタイルに疑問を感じ退職。観光で訪れた南会津の景色に惹かれ移住を決意。地域おこし協力隊として2022年4月に着任。経営支援や企画運営を行うため個人事業主として「かそプランニング」を設立。
一棟貸しのゲストハウス「KIKORI HOUSE」と「KIKORI CAFE」を開業して営む。南会津町の産業やコミュニティを活性化するまちづくり事業を展開中。

茶圓いずみさん:
1991年愛知県生まれ。障がい者福祉や食品加工などの仕事に従事。大学時代に出会った秀介さんとの結婚を機に専業主婦になる。南津町へ移住するにあたって夫の秀介さんとともに地域おこし協力隊として2022年4月に着任。道の駅やマルシェで手作り焼菓子を販売。2024年6月にオープンした「KIKORI CAFE」では週末や祝日にパンやランチを提供している。

茶圓秀介さん、茶圓いずみさん

自然に囲まれた古民家の景観に魅了され夫婦で地域おこし協力隊として移住

南会津町にある前沢曲家集落の景観
南会津町にある前沢曲家集落の景観

Q.南会津町に移住したきっかけを教えてください

秀介さん:
僕は東京で都市開発の仕事をしていました。好きで選んだはずなのですが、都心の再開発って「つまらないな」とずっと感じていて。ビルを壊してまた建てて、テナントがちょっと変わったかなというくらい。それなのにプロジェクトメンバーは寝る間もなく働いていて…。「この働き方はおかしくない?」っていう疑問がありました。

まちづくりをするのなら、地方のまったく開発されていないところでやりたいと考えているさなかでした。家族旅行で南会津町を訪れたとき「ここだ!」とふたりとも惚れ込んだのがきっかけです。たまたま地域おこし協力隊の募集があったので、那須塩原市から夫婦で南会津町の協力隊として移住してきました
 

いずみさん:
当時3歳の娘を連れた旅行の目的地は会津若松で、道中に南会津町に初めて来たのが2021年の6月末ぐらいです。那須から車で行く途中に、前沢曲家集落があるのをインターネットで見つけて、寄り道していくルートにしました。実際に古民家を訪れてみると風景に感動して、純粋にこの自然豊かな所に住みたいと感じました。
横浜市に住んでいた頃に「ちょっと暮らしづらい」と感じて、那須塩原市に住んだものの、南会津町の田舎度の高さが好きです。8月ぐらいには夫婦で町役場へ移住相談に行ってました。

Q.移住してから暮らしに変化はありましたか?

秀介さん:
今まではサラリーマンとして、ほとんど会社で過ごし、休みに家族でどこかに出かけて癒される生活。南会津町に移住してからは、仕事とプライベートの境目がなくなって、南会津の暮らし自体が楽しいです。会社勤めの時は、ストレスのせいか健康診断の数値が何個か引っかかっていたのに、移住してからは異常なしになりました。空気の良さのおかげで娘のぜん息もよくなりました。
 

いずみさん:
わたしは大学卒業後は障がい者福祉の仕事に就きましたが、体調を崩して退職。農業や食品加工に興味があったので牧場でヨーグルトを製造したこともあります。結婚してからはずっと専業主婦でした。子育て期に入ったけれど、幼稚園や小学校に上がったら何をしようかなって悩んでいたんです。移住してからは、マルシェで手作り焼菓子を販売したことや、カフェを開いて、使う食材を自分で栽培したいという夢もできました。いま中心事業にしているカフェだけでなく、興味のあった農業にも挑戦してみたいです。2023年からは寒冷地域に適した農産物としてラズベリーやカシス、クランベリーなどを試験栽培しています。「KIKORI CAFE」のメニューに活用できるように、収穫量を増やしているところです。カフェの仕事を通してこれからの方向性が定まってきた感じです。
(「KIKORI CAFE」の詳細については後述を参照)

Q.山に囲まれた南会津町の日常生活はどうですか?

いずみさん:
最初の年は雪が多くて一面真っ白!異世界に来たようでワクワクしました。前に住んでいた那須塩原は雪があまり降らないんですよ。

町営住宅は除雪機で綺麗に除雪してもらえて、屋根から雪が落ちる仕様なので大変さは感じてないです。細かいところは自分たちでやる程度で、雪かきもいい運動になります。

普段の買い物は那須もしくは田島方面に1週間分を買い出しに行きます。以前住んでいた那須は土地勘もあり品揃えが豊富なので。その時に友人に会えるのも良い点です。往復で3時間くらいかかるので忙しい時は少し大変かな?インターネットでの買い物は何でも翌日に届くので不便な感じはしません。

木の魅力が詰まったゲストハウスとカフェを開業

きこりの山小屋の伝統的な工法を再現したKIKORI CAFE
きこりの山小屋の伝統的な工法を再現したKIKORI CAFE

Q. 地域おこし協力隊としてどんな活動をされていますか?

秀介さん:
活動1年目の2022年は、南会津町舘岩地区にあるたのせ集落の活動をサポートするのが任務でした。テントを建てて毎週末に開催する「たのせの農村マルシェ」を企画し、3カ月間実施しました。今はカフェで提供している焼菓子やコーヒーなどを、商品開発して道の駅や鉄道の駅で委託販売をしていました。他にも前沢集落では、かやぶき屋根を維持修繕する枠組みの提案もしました。


いずみさん:
6月から10月に開催した「たのせの農村マルシェ」は、関東圏からこの地域が好きで通ってくるお客様も多く繁盛しました。でも、私達がやりたいやり方と集落の人たちの期待に相違が出てきたので、活動の方向性を変えたいと町役場の方と話し合いをしていたんです。その頃に製材業を営む株式会社オグラの社長にお声掛けいただきました。2023年の3月ごろ知人の紹介でお会いして、現在運営しているゲストハウスやカフェの仕事につながりました。

モデルハウスをゲストハウスに活用した「KIKORI  HOUSE」
モデルハウスをゲストハウスに活用した「KIKORI HOUSE」

Q. 「KIKORI HOUSE(キコリハウス)」を始めたきっかけは

秀介さん:
株式会社オグラの社長には後継者がおらず、製材業が縮小傾向でこれからどうすればいいかという相談を受けました。製材のほかに住宅事業もやっていて、とりあえずモデルハウスを作ったけど「どうやって人を呼んだらいいのかわからん」っておっしゃって。じゃあ「宿にしたらみんな泊まりに来るし、家の良さがわかるでしょう!」と提案したのが一棟貸しのゲストハウス「KIKORI HOUSE」です。
いまゲストハウスに滞在しているのはベルギーからきた旅行客です。尾瀬に観光に行く人や、登山、スキーなど世界各地からたくさんの方にご利用いただいています。

Q.ご夫妻が営む「KIKORI CAFE(キコリカフェ)」について聞かせてください

秀介さん:
「KIKORI CAFE」は材木倉庫の一角に作られています。株式会社オグラの社長は、お椀などの木工品をつくる木地師がルーツ。カフェはきこりの山小屋の建築を再現した設計で、巨木の一枚板を見せられるように建築デザイナーさんにお願いした内装です。冬は薪を燃やすペチカストーブを使ってベンチが温まる構造にしたり、カウンターは材木を乾燥させるときの桟積みをモチーフにしたり、製材所ならではのデザインにしています。

いずみさん:
前から焼菓子づくりが好きで続けていましたが、南会津に来て本格的にパン作りも始めました。オンラインでレッスンを受けたり、人に教えてもらったりしながら集中的に学び、カフェで販売ができるようになりました。

いずみさんの手作りパンが楽しめるランチ(左)移住してきた友人のパティシエが作る季節のスイーツ(右)
いずみさんの手作りパンが楽しめるランチ(左)移住してきた友人のパティシエが作る季節のスイーツ(右)

いずみさん:
カフェの奥にキッズスペースがあるので、子ども連れでも気軽に楽しめます。カフェのスイーツを担当するパティシエ経験がある友人にも小学生の子どもがいるので、営業中は娘たちの遊び場になっています。

子ども連れには嬉しい2階建ての広いキッズスペース
子ども連れには嬉しい2階建ての広いキッズスペース

ふくしまぐらしのお気に入りベスト3は?

未開発

南会津の未開発さが一番。森は豊かですが、山が個人の持ち物で飛び地になってしまったり、日光と尾瀬の国立公園内は国有地になっていたりと、地域産業化はうまくできてないです。もっと木の魅力を活かしていきたいです。(秀介さん)

温泉

ほとんど毎日温泉に浸かっています。皮膚が弱くてアトピーだったのに、保湿剤がいらないほど調子がいいです。南会津町の生活はまさに湯治。知る人ぞ知る秘湯もあって温泉マニアにはたまらないです(いずみさん)

風土に根ざした景観

大学で古民家の研究をしていました。南会津町には昔ながらの雪国の古民家がたくさん残っていて景観に惚れました。(秀介さん)
四季折々の景色に、住めば住むほど「暮らす環境」のよさを実感しています。夫に大学時代から聞かされていた日本の木造建築や古民家の魅力が、南会津に来た時に「つながった!」と思いました。(いずみさん)

福島で暮らしてみたいなという方へ

秀介さん:
移住についての相談をするのはもちろんですが、仕事や生き方についても日常的に話をして、夫婦や家族でビジョンを共有できていることが大事ですかね。

いずみさん:


小さいことでケンカすることがあっても、大きい価値観が一緒なのは大切。子育て期にどう働くのかモヤモヤしていた気持ちや、自然がある田舎暮らしのほうが好きといった話をしていたので、それが南会津に移住したことで解消できたと思います。

編集後記

KIKORI CAFEは、いずみさんのパンや秀介さんの入れるコーヒーを味わいつつ、木の香りに癒される空間です。お試し移住の拠点にもぴったりの「KIKORI HOUSE」も敷地内にあります。南会津町の暮らしに興味が湧いた方は、ぜひ訪れてみてくださいね。


今回は、南会津町へ移住された茶圓さんご夫妻に、移住のきっかけとふくしまぐらしの良さについてお伺いしました。

今後も、県内各地の様々な移住者の方にお話を伺っていきますのでお楽しみに。 福島県への移住、Uターン移住を検討されている方々へ、少しでも参考になれば幸いです。


KIKORI CAFE キコリカフェ
営業時間 10:00〜16:00
営業日 公式インスタグラムの営業日カレンダーをご覧ください。
https://www.instagram.com/kikoricafe93/
福島県南会津郡南会津町岩下93
※「KIKORI CAFE」は「きこりの店」の店内にあります。

(この記事は、2024年9月に取材したものです)

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